2016年6月23日
日本福祉大学名古屋キャンパス南館5階
18:30~20:30
講師 石本馨OTR
6月のワンコインセミナーのテーマで途上国の障害を持たれた人たちとその支援について考え
ます。石本さんの途上国の現状とリハビリテーションの活動の様子を聞いてリハビリテーションの
力の大きさを今更ながら気づかされました。途上国の様子は戦後の日本の状況とも変わりありません。
アジアのリハビリテーションの深化・進化は日本のリハビリテーションにもいい影響を与えてくれる
ことでしょう。
◎世界では・・・・・
インフラの整備が十分でない途上国(アジア・アフリカ)では障害のある人、その家族が頼る
医療・リハビリの施設は皆無に等しい状況にあります。医療の届かない村での保健活動を担う
のは主に看護師や保健婦ですが、近年はリハビリスタッフやソーシャルワーカーも加わり
、障害を持つ人を支援する取り組みが注目されています。
石本さんはそのチームの一員として障害を持つ子供の支援に活動されてきました。今日は
主にバングラディッシュでの活動が報告されました。
現在世界の人口は97億人と言われています。世界保健機構(WHO)は近年 人口の15%
障害者14億人と公表しました。 そのうちの80%が途上国で生活しています。
世界的にリハビリテーションに携わる人材を作業療法士の人口比でみてみると1万人に対し
て日本では5人、トップのデンマークでは15人で 北欧の国での作業療法士数が多いですが
一番少ないトルコ・ナイジェリアでは人口1万に対し0.001人という状況です。まだまだ自立した
生活を支援できる取り組みが世界的な規模で行われている状況にないことがわかります。
◎途上国でのリハビリテーションの現状
途上国の社会的な課題はインフラだけではありません。家族・子育てに重要な役割を果たす
女性の地位向上も大きな課題です。アジア地域では女性の活動を支援し教育をすることで
効果をあげることがあります。途上国のリハビリテーションでは紛争や戦争の後遺障害(PTS
D)はもちろんのこと世界的な傾向である老年期障害も近年対象者が増えてきています。先進国
や都市型の傷病傾向にくらべ視覚障害と聴覚障害・脊髄損傷とうつ病、脳性麻痺と脳血管障害、
知的障害と視覚障害など障害を重複して抱えている子供・成人も少なくありません。こうした子
供達や人たちへの職業訓練的要素のある活動、教育支援が重要なリハビリテーションチームの仕
事になっています。その延長線上にはインフラの整備・高齢者・障害者、子供にやさしいまちづ
くりがあります。病気や怪我などによる身体障害だけでなくメンタルの問題も多くあります。
しかしメンタル面の病気の診断ができる医師は少ないのが現状です。また治療に欠かせない薬が
安定して手に入るかやちゃんと薬を飲むという習慣や教育がなされるかという課題も立ちはだか
っています。教育をうけられる層は途上国の社会全体からすれば一握りです。さらに医学・医療
に進む人は限られ、その人たちの多くが国外に流出してしまいます。せっかく学んだことを生か
すための補償が社会の中に不足しているからです。
◎日本の技術&人材が注目されています。
途上国の女性の地位は低いですが外国から支援に行く女性は別に扱われています。青年海外
協力隊で活動する女性は途上国の女性の支援に入りやすく、女性の抱える問題の解決に当たれ
る貴重な存在になります。
高齢になられた日本からの海外移住者にとって懐かしいい日本の文化を知り支援してくれる
日本人の支援者の存在は異国での生活の支えになっています。日本人は戦前・戦後を通してブ
ラジル・アジアと幅広い地域に移住しています。その歴史的な事実に目を向け伝えてゆかなけ
ればなりません。
急速な高齢化人口の増加、災害にみまわれる環境の日本の社会保障と問題解決の経験は世界
から注目期待されていることを途上国のリハビリテーション活動を通して実感しています。
◎ いいとこあるじゃん 日本人とその文化
日本人は欧米諸国の人々に比べて当事者目線の活動をするという評判は途上国では定着し
てきています。日本人の活動が受け入れやすい背景には途上国の文化的な背景が見逃せませ
ん。アジアと日本は長い歴史的な交流があり、仏教や儒教などの教えを共有する文化圏にあ
ります。
アフリカの植民地に対するヨーロッパの対応は本国での少数をピックアップするエリート
教育方式を導入したためアフリカ諸国の全国民の識字率は低く安定してしまいました。
◎世界の技術協力団体
国際協力に関わる方法はいろいろあります。1週間単位の気楽なものから専門職として関わる
方法まで自分のライフスタイルに合ったやり方でできます。
NGOスタディーツアー
JICA(青年海外協力隊、シニアボランティア、JICA専門家など)
NGO(日本キリスト教海外医療協力会、難民を助ける会、ドイツ平和村など)
国連(UNV,専門職員)
個人的ネットワーク
◎バングラディッシュの活動by石本
日本の面積の4割 北海道程度の面積に人口1.6億人が生活しています。
1971年独立 東パキスタンが独立してバングラディッシュになりました。
イスラム教が90% 高温多湿な風土であり雨期には北の山地からの雪解け水による川の氾濫と
南からのサイクロンによるの水害のためインフラが整わないうえ絶え間ないインドからの脅威に
さらされています。貧困層の社会保障費すら国家予算として賄えない状況です。
首都ダッカで女子修道会が運営する障害児のデイケアセンター兼宿舎を拠点として子供20人
に対してセラピスト・ソーシャルワーカー ・幼児教育の専門家・外国NGOで働き薬学ス
ペシャリストらとチームを組んで活動してきました。
◎きっかけは作業療法
身体障害と知的障害をもっているため机の上での勉強についてゆけない子供にものづくりを提
案してみました。新聞紙をつかって型紙をきる作業です。新聞紙が上手にきれるようになると型
紙をきります。いづれ洋服づくりという仕事につながる作業です。これは女子も男子も楽しくで
きました。これを知った他のNGOが洋服づくりの販売を手伝ってくれました。売り上げは子供
達のおやつに還元されます。こうした活動を通し生きる力を学習してゆきます。
貧困や教育がないことで多産の傾向が農村地域にはあります。家族に障害児がいればその村で
生活するのは困難を極めます。そういう家族の支援にチームで入りました。障害児の介助の仕方
を教え車いすでの移動を助けるというスタッフの活動そのものがその村の人たちの教育につなが
ります。支援の仕方を知ることや障害の症状を知るということが孤立から解放してゆきます。
この家族はその後村の人たちの協力を得て家族に笑顔が戻ってきているということでした。
◎リハビリテーションの仕事は世界中どこでも役にたつ人間の知恵です。
作業療法のように作業活動を提案する立場で忘れてはならないことは
「みんな きれいなものが好き」
「やった」「できた」という達成感
「役にたってる」「役に立つ」という気持ちです。
そのためにやらなければならないことは
「共に悩む 共に働く」
そのために役立つことは
日本でも外国でも同じ「リハビリテーション」の心をもって働くことです。
最後に石本さんから一言
≪日本の外で活動してみて私は「障害」だけでなく「障害をもつ人」を見ることができるようになりました。≫
(文責・田原)