身の回りではコミュニケーションの取り方が原因でいろいろな問題がおきています。原因がつかめないまま周囲の言動に振り回されたり、問題が解決されないまま時間がすぎストレスの原因になったりしています。今月のワンコインセミナーのテーマはコミュニケーション 今回の講師は作業療法士の石本馨さん。昨年7月のワンコインセミナーでは石本さんのファシリテ―トでインタビューのスキルを磨きました。今月は身近な困ったことに潜む要因を分析する社会科学的な方法のひとつであるPCM(Project Cycle Management)をご紹介いただきました。実際に、参加された皆さんから身近な問題を挙げていただき一人の人の困った問題をこの方法を使ってみんなで考えてみました。一人の問題をみんなで分析するプロセスを通して会話が弾み相互理解が深まります。グループ内に問題の解決に向けて一丸となるというダイナミックスが生まれます。それがこの方法の醍醐味です。実際この方法は街づくりや途上国開発支援の事業にこの問題分析の方法が取り入られているとのことです。
今回、皆の問題の中から老人保健施設の作業療法士さんの困った問題「利用者のポジショニングの方法が介護職員に伝わらず困っている」を取り上げその問題の発生の背景や要因を皆で考えました。参加者がその作業療法士さんの話す内容を聞いて思いつくことをカードに書き出します。ファシリテーターの石本さんがコアになりそうなカードを選びそのカードをさらに分類してゆきます。そして分類されたカードをグループにします。次にグループ同士の因果関係を決めてゆきます。いつの間にか散乱したカードはコアのカードを根にした樹形図になってゆきます。今回は 「介護職員とリハ職員間の信頼関係がない」をコアにして「接触する時間・場がない」「介護職員の身体機能に関する知識不足」「リハスタッフが介護職員の仕事の状況に合わせた説明をしていない」の3つのグループにまとめたところで時間切れとなりました。さらにその中身のカードの吟味が楽しみとなったところでもありました。
取り上げられて問題を抱えている作業療法士さんは終わって「介護職員へは伝達方法ではやるだけのことをやってきたつもりでいたが視野が広がったように思う。まだまだ考えることがありそうな気がする。」と感想を述べられています。
ファシリテーターの石本さんは「この問題分析はまだまだ続きます。樹形図が完成すると今度は問題解決に向けて同じプロセスを踏んでゆきます。ひとつの問題分析の方法で
1週間以上かけることもあります。職場で発生する問題の多くはコミュニケーション不足によるものです。この方法を職場で取り組む時間・場ができれば職員同士で不足している情報を発見し多職種、立場を超えて問題の解決に向かうことができるでしょう。」と話されています。(田原)
今回の石本講師から
今回ご紹介したのはPCM(Project Cycle Management)という方法です。PCM手法は、効率的かつ効果的な開発援助事業(プロジェクト)を行うために開発された手法です。この手法では、対象者や支援者など関係者が一堂に集まり、援助を必要とする人々の抱えている問題や課題を考えながら、事業を計画します。PCMは4つのステップで構成されていて、今回ご紹介したのは第2ステップの問題分析です。問題を関係者全員で分析し、視覚化することで、根本となっている問題を共有します。その後は問題が解決された状態をイメージ(目的分析)し、解決方法を組み立てる(計画策定)と進んでいきます。問題を全員で共有し、解決方法を一緒に考えるこの方法は、多職種連携がカギとなる地域包括ケアシステムや障害者の就労支援プロジェクトにも役立ちます。今回の参加者の方から「続きを知りたい」とのリクエストがありましたので、来年度のセミナーでもやりたいと思います。興味のある方はぜひご参加ください。