講座 認知症と感覚統合 2

認知症にたいする感覚統合実践のための理論背景
1. 神経系への働きかけ
(ア) 覚 醒
   ① 姿勢:頭を上げる。胸を広げる。脳活動は酸素を多量に消費する。酸素摂取量の増加によって気分が高揚する。重力を感じる硬いシートなどで前傾姿勢を矯正、胸を圧迫しない。腕を挙上することで酸素摂取量が増す。腕を交互に上下する活動は、呼吸のポンプ作用となる。パラシュートゲームや風船バレーなど。
   ② 嗅覚刺激:コーヒー、酢、ユーカリなど
   ③ 軽く触れること:羽根など
   ④ リズムやピッチが変化する元気の良い音楽
   ⑤ 運動(変化のある前庭系刺激。ジョギング、ダンス、体操、水泳など)
(イ) 鎮 静
   ① 姿勢:支えられた安全を感じるもたれかかり(リクライニングシート、クッションなど)
   ② 触圧:優しくリズムカルに背中を撫でたり、マッサージする。包み込む毛布や布団の重み。
   ③ 適度な暖かさ:体温を保つ
   ④ 同じテンポで、変化のない音楽
   ⑤ ゆっくりしたリズミカルな運動、ロッキングチェア、ハンモック、ゆり椅子、ブランコなど
(ウ) 動機づけ
感覚剥奪の防止。環境からの感覚入力を増す、特に運動(固有受容器)により動機づけられる事が多い。環境のアフォーダンスを利用する。
(エ) 感覚データーの処理の改善、連合(記憶)の回復と改善
脳幹の輻湊核に十分な入力を図る。前庭覚、固有受容覚(腱、関節、筋の活動)、触圧覚
(オ) ストレスホルモンの代謝
身体的、精神的なストレスの蓄積(副腎皮質ホルモンのコルチコステロイドなど)は、視床下部の放出因子と神経伝達物質を生産し、高血圧や胃潰瘍、精神障害の原因となりうる。ストレスホルモンは激しい運動によって代謝される。いかなる活動も効率の良いストレスホルモンの代謝をもたらすことができる(Gal & Lararus)。病院や施設の中ではストレス発散の機会が少ないので、特に重要。
2. コンピテンシー(competency)を打ち立てる
(MOHOでいう個人的原因帰属?エンパワーメント);自分のニーズを管理し(選択する、決める、できることはする等)、自尊心や主体性、有能性を回復する。
(ア) バリアフリーなどを考慮した環境を整える。自助具や福祉機器の利用。
(イ) 環境の変化や学習への配慮。もの忘れ防止のためのノウハウ。例:小物の紛失を防ぐための車いすやベッド周りにマジックテープで付けられるポケットなど。
3. 交流・社会参加の機会を増やす
(ア) 笑顔、挨拶、相づち、アイコンタクトなどが交流の社会的技能なので、「行動変容」アプローチと教示によって、社交態度を学んでもらう。ぶっきらぼう、無反応、ひねくれた返事や要求に対して「笑顔で言ってくれたらうれしいな。すぐに動いちゃう」など、笑顔でひょうきんな反応をすると、同じような笑顔、冗談の交流が返ってくるかもしれない。ただし、そうでない場合は臨機応変に。
(イ) Maslowが定義する高次レベルのニードのひとつは環境への主体的順応である。しかし、「自分でしたいことをするためにヘルプ!」というニードが、周りの人たちを操る(振り回す)という結果になる場合がある。こうしたニードが満たされていると感じてもらうためには選択や意志決定の機会をできるだけ多く与えるべきであろう。(例:「ジュースと水のどちらで薬を飲みたい?」「歩行器の方向はどちらに向ける?図書室?テレビ室?」等、どのような些細なことでも意思決定を促す。)
(ウ) 作業療法の活動は多くの選択と意思決定の要素を含んでいるのでこれを活用する。グループ活動は社会的技能を促進する。
                        (原和子 講義メモから)